彼女は思い出す@

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この道のことは、よく覚えている。

山の麓から堀塚邸まで続く、緩やかな坂道。
十分に広く造られた車道。その脇の、これも十分な広さのある歩道。
この道の先には堀塚邸しかないので、行き交う車は滅多にない――という事を、明君に聞いたことがある。

それはよく覚えている。

でも、昔ここに来たとき…私は1人でこの道を登っていた?
今は横に美加がいるけど、その時も誰かが?

…ううん、いない。
私は1人だった。
行きも帰りも1人。
それは確かなこと。

でも、堀塚の家では…4人。4人で遊んでいた。
明君と紗希ちゃんと、私と――もう1人。美加じゃない女の子。

誰だっけなぁ…。
どうしても思い出せない。

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その女の子は、紗希ちゃんに初めて会ったときには居て、その翌年美加が来たときには居なくなっていた。
その間、その1年の間に起こった事と言えば…

…明君のお父さんが亡くなっている。

それと何か関係しているのかな?
あ、そもそも明君のお父さんって、どう――

美加「古乃羽、あっちじゃない?」

私「ん?…あ」

美加が立ち止まり、横の道を指差す。
見ると、「あっちじゃない?」というのはかなり控えめな言い方で、明らかにそっちが正解だ。
何しろ、車道はそちらに向かって曲がっており、その先には堀塚邸が見えている。
私の前方には、山の上へと歩道が続いているだけだ。

私「ごめんごめん、そっちだ」
美加「その道、どこに行くのかな」
私「?」

美加に言われて、私は自分が進もうとしていた道の先を見る。
先ほど言った通り、車道は堀塚邸に向かって横に曲がっているが、歩道だけはここで分岐して、車道に沿って横に向かう道と、更に真っ直ぐ、山の上へと進む道に分かれている。

私「知らないな、どこだろう?」
美加「…ま、いっか。いこいこ」
私「うん」
そう言って私達は道を曲がり、堀塚邸へと向かった。

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明「――やぁ、待っていたよ」

3階立ての、洋風の豪邸。
昔の外国の映画に出てきそうな建物。
その重々しい玄関の前に立ち、美加と二人で「インターホンはどこかな?」と探していると、扉が開き、明君が出迎えてくれた。

こんにちは、お久しぶり、と挨拶を交わし、招き入れて貰う私達。
「2人とも本当に綺麗になったね」なんてお世辞に、「そんなこと無いよ」と返す私と、「自分でも困っちゃう」と返す美加。

紗希ちゃんが早く会いたがっていると言うので、私達はコートを脱ぎ、明君と一緒に2階にある彼女の部屋に向かう。
家族の方にも挨拶をしないと、と思ったけど、今は留守らしい。

部屋まで歩きながら邸内を見渡すと――うん、懐かしい感じがする。
何回も来たことがある訳じゃないけど、内装は結構覚えている。
なぜなら、紗希ちゃんのために少し特徴的な造りになっているからだ。

随所に付けられた手摺りや、車椅子のための幅広い廊下。各階に行くためのエレベータ。
それと、階段の横に付けられた車椅子用の昇降機。

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初めてこの家に来た美加は、へぇー、ふーんと、珍しそうに辺りを見渡している。

そういえば、私も最初に来たときはそうだったなと思う。
…と同時に、あることを思い出す。

昔来たときも、今と同じように私は明君に連れられて紗希ちゃんの部屋に向かった。
その時は――今と同じく、3人だった。
もう1人、女の子がいたのだ。

つまり…私は1人で来たわけだから、その時出迎えてくれたのは、明君ともう1人の女の子ということになる。

…何だか、変な感じだ。

明君とその子は私より先にここに来ていたのだろうけど、部屋に紗希ちゃんだけを置いて、2人で出迎えに来るものだろうか。
何だか、紗希ちゃんが可哀想に思えてしまう。
まぁ、まだ小さかったから、あまり細かいことは気に掛けなかっただけかな?

…と、そんな事を考えている内に紗希ちゃんの部屋に着く。

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コンコンと軽くノックをしてから、3人で部屋に入る。

紗希ちゃんの部屋は、一言で言うとヌイグルミの部屋。
趣味でヌイグルミをよく作るそうで、部屋の中には無数の自作のヌイグルミが置かれている。
昔来たときも結構な数があったけれど、あれから数年経った今、当然ながらその数は一段と増えていた。

そんな中、出窓の前に置かれたベッドの上で、紗希ちゃんが私たちを迎えてくれた。

紗希「お久しぶりです。古乃羽さん、美加さん」
落ち着いた佇まいで、笑顔を見せてくれる紗希ちゃん。
その様子がどことなく舞さんに似ている感じがして、そのせいか、1つ年下のはずの紗希ちゃんが大人びて見える。

私&美加「お久しぶりー」

口を揃えて挨拶をする私と美加。
そこで、あれ?と思う。

いつもの美加なら、キャーとかワァーとか言って、紗希ちゃんに飛び掛らんばかりになりそうなのに、やけに大人しい。
…さては私と同じように、彼女の大人な雰囲気にたじろいでいるのかも知れない。

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紗希ちゃんのベッドの横には大きなテーブルが置いてあり、彼女はベッドの上に座ったまま、私たちとテーブルを囲うことができるようになっている。
昔はここでトランプだのボードゲームだので遊んだっけな、と思いながら椅子に座り、改めて紗希ちゃんを見る。

白い肌。透き通るような肌って、こういうのを言うのかな。ちょっと羨ましい。
それと対照的に髪は黒く、長く伸ばして後ろで結わいている。
昔は確か肩くらいまでの長さだと思ったけど、今は腰までありそうだ。

何か飲み物を持ってくるね、と言って明君が部屋を出て行く。
私たちはそれを機に…という訳でもないけど、紗希ちゃんとあれこれ話を始める。

会うのは何年振りだろうね、という話から、お互いの近況の話。
特に、生活面において私たちは大きく変化している。
何しろ最後に会ったのが中学の頃なので、それと比べて今は、どちらも実家を出て1人暮らしの身だ。

紗希「…1人で暮らすのって、やっぱり大変?」
興味があるのか、紗希ちゃんが聞いてくる。

私「んー、そうでもないよ?ほら、美加にだってできているし」
美加「そうそう。それは否定しないね」
紗希「ふふ。でも、いいな…」
ちょっと羨ましそうに言う紗希ちゃん。
1人暮らしに憧れているのかも知れない。

美加「紗希ちゃんなら問題なくできるよ。ね、古乃羽」
私「うん。私の家の近くに、車椅子で1人暮らししている人もいるよ」
紗希「へぇ…」

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もし1人暮らしをするなら何でも相談してね、と言っていると、明君がワゴンと共に戻ってくる。

ワゴンの上には、良い香りのする紅茶と小さなケーキが幾つか乗っており、こういうのを見ると、あぁ、ここってやっぱりお金持ちな家なのね、と変に実感してしまう。

慣れた手付きで紅茶を淹れてくれた明君を交え、今度は高校についての話をする。

前に聞いた話では、紗希ちゃんは小・中学校には行かず、数人の家庭教師を雇い、家で勉強を教えて貰っていたとの事だった。
では、高校はどうしたのかな?と思い、聞いてみると…これまでと同様に、家で勉強をしていたらしい。

…つまり紗希ちゃんは、"学校"というものに、一切行ったことが無いのだった。

私「そうなんだぁ…」
何か、マズイ話題に触れちゃったかな?という気になる。
学校に行っていないという事は、同年代の友人を作る機会が極めて少ない、という事だ。

家庭教師の人とは仲良くなれるかも知れないけど、何かをして遊ぶ時や、気兼ねなく他愛のない話をするとなると、やはり同じ年頃の子が――
と思ったところで、私は例の、もう1人の女の子の事を思い出す。

そうだ。
もしかしてあの子は、紗希ちゃんのお友達だった…?

彼女は思い出すAへ続く
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