友人が来る

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あぁ、のどかだなぁ…

バスに揺られて、ぼーっと窓の外を見ながらそんなことを思う。

古乃羽のお母さんの故郷。
ここには中学に入ってからの3年間、毎年夏休みに古乃羽と一緒に来ていた訳だけど、高校に入ってからは来なくなっていた。

「何も無くて、つまらない」

単純にそんな風に考えていたからだ。
ここの良さが分からないなんて、私も子供だったなぁ…
なんて、大人になった気になって思う。

ベンチ1つのバス亭でバスを降り、古乃羽に書いてもらった地図を見ながら「杵島さん」の家に向かう。
まぁ、地図なんて見なくても道は覚えているけどネ。
昔から道を覚えるのは得意だし…そもそもここには、間違えるほど道が無い。

そんな失礼なことを思いながら歩いていると、前から着物を着た1人のお婆さんが歩いてきた。

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上品そうで、穏やかな感じのお婆さん。

ここは通りすがりに挨拶を――と思いきや、そのお婆さんは私の目の前で立ち止まり、「こんにちは」と丁寧に挨拶をしてくる。
相手が止まったのに通り過ぎるのも悪いと思い、私も立ち止まって挨拶をする。

私「こんにちはー」
まだ朝の10時だけど、相手に合わせて「こんにちは」。

お婆さん「東京から、ですか?」
私「え?あぁ…はい」

唐突に質問をされ、正確には東京じゃないけど大体"その辺"なので、はいと返事をする。

お婆さん「そう…」
私「…はい」
お婆さん「東京は、遠いですよね…」
私「え?あ、えぇ、そうですねぇ」

遠くを見るような目で、感慨深げに言うお婆さん。
確かに、ここからはちょっと距離があるけど…何だろう?
…と思っていると、そのお婆さんはこんな事を言った。

お婆さん「私は、ここから出たことが無いのですよ」

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私「…え?」

出たことが無いって…?

お婆さん「ずっとここで暮らしていて…もうこの年だし、外に出ることは無いと思います」
私「…はぁ」

それだけ言うと、お婆さんはペコリと頭を下げて去っていく。
突然の事に、私は何とも言えない気持ちでその後ろ姿を見送る。

どうやら「出たことが無い」というのは、この村――もとい、町を、ってことみたいだ。
それが寂しいのか、悲しいのか…それとも、後悔しているのかな?
どう思っているのか、ちょっと分からない。
見た感じ足取りもしっかりしているから、まだどこか遠くに行こうと思えば行けそうになのにな。

家族の人はどうしているのだろう。
子供やお孫さんは居ないのかな?
誰か、ここから外に連れて行ってくれる人は居ないのかな…?

4/10
ちょっと沈んだ気分になってしまったけど、私は気持ちを切り替えて道を行き、やがて「杵島さん」の家に着く。
そして呼び鈴を…というところで、ガラガラと引き戸が開き古乃羽が出てくる。

古乃羽「…あ!美加?今から迎えに――」
私「あぁーん、古乃羽〜」

言うが早いか、私はひしと古乃羽に抱きつく。

古乃羽「や、ちょっと…」

むふふ、うろたえろうろたえろ…なんて思いながらギュッと抱きついていると、古乃羽のすぐ横に、大きなリボンの女の子が居ることに気付く。

私「あら?」

古乃羽を解放し、私はその女の子の前にしゃがみ込む。
するとその子は古乃羽の後ろに隠れてしまう。

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私「可愛い子ね、古乃羽の子?」
古乃羽「な訳ないでしょ。従姉妹の唯ちゃんよ」
私「へぇー」

古乃羽の後ろに隠れ、恐る恐るこちらを伺っている唯ちゃん。
どうやら人見知りさんのようだ。…まさか、私が怖いとかじゃないよね?

私「はじめまして、私、美加って言うの。よろしくね、唯ちゃん」
唯「……」

モジモジしている唯ちゃん。うーん、これはイイ…。

古乃羽「ちょっと人見知りで…ごめんね。ほら、唯ちゃん」
唯「…はじめまして」

古乃羽に言われて、小さな声で挨拶をしてくれる唯ちゃん。

私「はじめまして、唯ちゃん。おリボン可愛いね」

私がそう言うと、唯ちゃんは嬉しそうに顔を真っ赤にして、それを隠すように古乃羽に抱きつく。
あぁ、私もこういうの見習わないとなぁ…。

6/10
それから杵島のおじさんおばさん、更にお婆さんに挨拶を済ませた私は、古乃羽と一緒の部屋に落ち着く。

古乃羽「もうすぐお昼だから、食べたらちょっと出掛けよっか」
私「うん」
時計は11時過ぎを指している。お昼ご飯までは、あと1時間くらいかな?
よし、それじゃあさっそく――

私「あのさ、今ここに来る途中で、ちょっと変わった事があったの」
古乃羽「ん?なに?」

私は、先ほど会ったお婆さんの話をする。
こういうことは、すぐに話したくなるタチなのだ。

古乃羽「――へぇ」
私「何か、感慨深くなっちゃってねぇ」
古乃羽「若い頃に旅行とか行かなかったのかな」
私「そうだろうねぇ」
旅行に行く機会が一度も無かったというのも、何だか不思議な話だが。

古乃羽「いくつ位のお婆さん?」
私「うーん…60から80くらい」
古乃羽「…随分幅があるね」

見た目からはちょっと分からなかった。
年齢当てるの、得意なんだけどな。

7/10
――
やがて正午を過ぎ、私は美加とお昼を済ませてから、外に出掛けることにした。

唯ちゃんが一緒に行きたそうな顔をしていたけど、お昼寝の時間ということで断念。
人見知りな唯ちゃんだけど、私と一緒に美加のお迎えに行こうとしていたし、他人と接するのがまったくダメという訳ではなさそうだ。

美加「んーさて、まずはどこに行こうかなー」
薄手のコートを羽織り、外に出たところで美加が言う。

私「それだけど、最初に行きたいところがあるの」
美加「ほう」
男の人のような返事を返す美加。

私「あのさ、明君の事、覚えている?」
美加「明君ね。もちろん。私、そういう物覚えは良いんだから」

私「一昨日偶然会ってね。美加が来たら一緒に会いに行くね、って約束したの」
美加「へぇ…って、じゃあ行きたいところって、もしかして…あの?」
私「うん。あの家よ」

私はそう言って、ここから少し離れた山の中腹にある、堀塚家の邸宅に顔を向けた。

8/10
私「紗希ちゃんの事も覚えている?」
2人で並んで歩きながら、美加に聞く。

美加「そりゃ、もちろん」
私「だよね」
美加「うん。絵に描いたようなお嬢様。明君と一緒に紹介してくれたよね」
私「うん。…え?一緒に紹介した?」
美加「そうよ。こちらが明君で、こちらが紗希ちゃん、って」
私「あれ…?」

あれれ…私が紗希ちゃんと初めて会った時、美加も居たような…?
でも、美加の言うとおり、そうやって紹介した気も――

美加「どうしたの?」
私「ん」
ちょっとした疑問で思わず足を止めてしまった私に、美加が声を掛けてくる。

私「勘違いかなぁ…。紗希ちゃんと初めて会った時、美加も居たような気がして…」
美加「古乃羽が紗希ちゃんに初めて会ったのは、いつ?」
私「えーっと…6年生の時かな」
中学には入っていなかったし、これは確かだ。

美加「じゃあ居ないよ。だって、私がここに来たの中学に入ってからだもん」

9/10
私「あ、そうだね…」

そうだ。美加を誘ったのは、中学に入ってからだ。

私「じゃあ美加、明君のお父さんに会ったことはない?」
美加「ないねぇ…。私が明君に初めて会った時、お父さんはもう亡くなっているって聞いたし」

どうやら、美加の記憶が正しいようだ。
私が紗希ちゃんと初めて会った時、紗希ちゃんは明君のお父さんが連れてきてくれた。…その数ヶ月後に、亡くなってしまうお父さんが。
でも、そうすると――

私「紗希ちゃんと会った時、私たち川原で遊んでいたの。そこに紗希ちゃんが来て、4人になったのよ」
美加「古乃羽と明君と、紗希ちゃんと…明君のお父さんで4人じゃない?」
私「ううん」
私たちは車椅子の紗希ちゃんを加えて4人で遊んでいて、明君のお父さんはニコニコしながらそれを見守っていた。

私「私と明君と紗希ちゃんと…もう1人居たのよ。確か、女の子――」

そう、女の子だ。だから美加と勘違いしていた。

あの女の子は…誰?

10/10
美加「これから明君達に会う訳だしさ、聞いてみればいいんじゃない?」
悩みこんでしまった私に、美加が言う。

私「…うん、そうだね」
そうだ。聞いてみればすぐに分かることだ。
でも――

美加「何かあるの?」
私「ん…ううん」

聞いてみれば分かる。
あの時、もう1人いた女の子は誰?と。

でも何だか…上手く言えないけど、変な感じがする。
美加が時々感じるっていう「違和感」って、こんな感じなのかな?
ただの記憶違いだとは思うのだけど…。

まぁ、どうせ地元の子か、私と同じように夏休みに帰省していた子だろうな。
明君に聞いてスッキリさせよう。

私はそう考えて、美加と堀塚家に向かう。

――それが「聞いてはいけないこと」だということを、私はこの時思い出すことが出来なかった。
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