2人は本を読むA

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満月に輝く夜空の下、ホウキに乗った魔女は敵国へと急ぎます。
明日の朝まではまだ時間がありますが、魔女には急がなければならない理由がありました。

なぜなら、魔女は森から出ると徐々に力を失っていくからです。

それが、魔女が森から出ることができないと言った理由であり、森から出てすぐに、早くも魔女に異変が起きてきました。
自分の身体が、若さを保てなくなってきたのです。

魔女は、今の若い身体のまま、森の中で数百年を生きてきました。
しかし森から出たことにより、急速な老化が始まったのです。

黒く美しかった髪は白くガサつき、肌は艶を失っていきます。
頬はこけ、顔にはシワが刻まれていきます。
それでも魔女は、兵士の元へと急ぎました。

時間と共にホウキも遅くなっていきましたが、魔女はやがて、敵国の城に着きます。
しかしそのとき魔女は、美しかった面影は欠片もない、年老いた醜い老婆になっていました。

魔女は残り少ない魔力で姿を消し、城へと侵入します。
そして地下の牢屋へと行き、誰にも悟られぬように鍵を開け、愛する兵士を含む、捕虜たち全員を逃がします。

そのとき、魔女は兵士の前に姿を現すことはしませんでした。
なぜなら、醜くなってしまった自分の姿を兵士に見せたくなかったからです。

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兵士たちが城から逃げ出すと、流石に敵国も異変に気が付きます。
そして、すぐに追っ手を出します。

捕らわれていた兵士たちは、自国を目指して走ります。
しかし、馬に乗った追っ手からは到底逃げ切れそうもありません。
このままでは再び捕まってしまいます。

兵士たちの背後に迫る敵兵。
そして、もはやこれまでかと思ったとき――
魔女が、追っ手の前に立ち塞がりました。

魔女は戦いました。

兵士たちを追わせないため、残り僅かな魔力で戦いました。
徐々に崩れていく身体で、1人で戦いました。
兵士の事だけを想い、戦いました。
幸せだった月日を想い、戦いました。

そして、やがて月が薄れ、朝日が昇る頃――

魔女はついに力尽きました。

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捕虜となっていた兵士たちは、無事に自国に戻ることができました。

彼らの帰還を喜ぶ声の中、兵士は真っ先に森へと向かい、魔女と暮らしていた秘密の家へと帰ります。

しかし、そこに魔女の姿はありません。
代わりに、魔女からの手紙と、1つの小箱が置いてあります。

その手紙には、魔女の字でこう書かれていました。
「おかえりなさいませ。私を想うなら、小箱を開けて下さい」と。

兵士は迷わず小箱を手に取り、蓋を開けます。
すると中から、不思議な霧が噴き出してきます。

霧を吸い込んだ兵士は、一瞬、頭の中が真っ白になりますが、すぐに我に返ります。
そして、こう思いました。

「なぜ自分はここに居るのだろう。ここはどこだろう。あぁ、早く自分の家に帰らなければ」

兵士は、秘密の家を出て行きます。
そして、二度とそこを訪れることはありませんでした。

――おしまい。

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――
なにこれ…。

唯ちゃんにその絵本を読んであげた私は、その内容に驚く。
子供には少し難しそうな悲しいお話で、5歳の唯ちゃんには早い気がする。
それとも、最近はこういうのもアリなのかな…?

私「ちょっと難しいお話だったね」
私は横で絵本に見入っていた唯ちゃんに話し掛ける。

唯「絵、キレイ」
私「…うん、そうだねー」

確かに、その絵本の絵は凄く綺麗に描かれていた。
登場人物は全てリアルな人物画で、魔女の姿は本当に美しく、また人物だけでなく、背景など細部に至るまで、きっちりと描かれている。
…でもやっぱり、こんな悲劇的な話より、絵本はもっとお気楽なお話が良いなと思う。
現に、唯ちゃんが持ってきた他の絵本はそういったものだった。
それらは私のお下がりだから、当然と言えば当然だけど…と思ったところで、ちょっと気になったことを聞いてみる。

私「唯ちゃん、この絵本、お父さんお母さんに買ってもらったの?」

すると首を横に振る唯ちゃん。

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私「じゃあ、お婆ちゃん?」
唯「んーん」

これも違う。じゃあ誰かな?と思っていると、唯ちゃんはこう言った。

唯「あきらくんがくれたの」

――あきらくん?

私「あきらくんって…明君?昨日の?」
唯「うん。ちょっと前に、唯に、って」

…あ、そっか。それで分かった。
この絵本の出所がハッキリした。

これは、紗希ちゃんの絵本だ。

「お金持ちのお嬢様が持っていそうな絵本」。
これはまさしく、それだ。

きっと、紗希ちゃんから唯ちゃんに、ということで、明君が渡したのだろうなと思う。
明君のお友達である唯ちゃんのことなら、紗希ちゃんが知っていてもおかしくない。

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――
絵本を全て読み終わった後、私はしばらく唯ちゃんとお話をする。

先日、幼稚園で「大きくなったら何になりたい?」という質問があったようで、唯ちゃんは「保母さん」と答えたそうだ。
他には、女の子では「ケーキ屋さん」「お花屋さん」「アイドル」なんてのがあったらしい。

私が唯ちゃんくらいの年の頃、私の夢も「保母さん」だった。
小学校に入ってからは、「学校の先生」。
中学に入ってからは…誰にも言ってないけど「占い師」なんてことを考えていた時期もある。
オカルトにハマりすぎていた証拠だ。

でも、いざ霊感を持ってみると、そんなことは欠片も思わない。
お婆ちゃんの話じゃないけど、こんなことは誰にも知られないほうが良い。
あまりに無力な私は、ただ危険な目にあうだけで――

――あ。

そうだ。唯ちゃん。

私は、横でちょっと眠たそうにしてきた唯ちゃんを見る。
この前はちゃんと確かめられなかったけど、”杵島の女”である唯ちゃんは、私やお婆ちゃんと同じように霊感を持っているのかな…?

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私「唯ちゃん、ちょっと良い?」
唯「?」
読むわけでもなく、先ほどの絵本をパラパラと眺めていた唯ちゃんが、こちらを向く。
私はそんな唯ちゃんの目を、ジッと見つめる…。
……

ない。

なしだ。
唯ちゃんからは、何も感じない。
あぁ、よかった…。

私「もう遅い時間だね。お部屋に戻ろっか」
唯「うん」
私は、ふわぁと欠伸をする唯ちゃんを叔父さん叔母さんの居る寝室に連れていってあげる。
そして「おやすみなさい」と告げ、私も部屋に戻って眠ることにした。

明日は美加が来ることだし、きっと夜更かししちゃいそうだから、今日のうちにシッカリ寝ておかないと。
そう思い、お布団に入って眠りにつく。

…その夜。

私は、夢を見る。

それは、私がホウキに乗って空を飛ぶ夢だった。
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