その目には何も見えない

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「あ、古乃羽ちゃん、美加ちゃん…」

朝早く、美加と2人で杵島の家に駆けつけると、玄関前で落ち着かない様子の叔母さんに声を掛けられる。

私「おばさん、唯ちゃんが?」
叔母「そうなの、もう、何が何だか…」

堀塚邸で一夜明けた朝、携帯に連絡があり、私は唯ちゃんが居なくなった事を知った。
しかも、どこかに出掛けていて、という事ではなく、「朝起きたら、隣で寝ているはずの唯が居なかった」と言うのだ。

叔母「すぐに警察に電話して、来てもらって…色々調べてくれているみたいだけど…」
家の周りにはパトカーと野次馬が集まっており、少し離れたところでは叔父さんが警察の人と話をしている。

叔母「戸締りとか、ちゃんと…でも自分からって…あの子がそんなこと…」
普段元気一杯の叔母さんも、流石に弱り切っている。

私「どういう状況だったか、話を聞かせて?私も美加も協力するから、お願い」
叔母「えぇ…あぁ、ごめんなさいねぇ…」

取りあえず叔母さんが座れる所を探して裏庭に行き、縁側が開いていたので3人でそこに落ち着く。

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美加と2人で質問をしながら、幾分落ち着きを取り戻してきた叔母さんから話を聞く。
その内容は、こんな感じであった。

昨夜、いつものように3人で川の字になって寝ていた。
朝6時に目が覚めると、間に寝ている唯が居なかった。
お手洗いかと思ったけど、そちらにも居ない。
夫を起こして2人で家中を探したけど居ない。
昨夜、玄関や勝手口、窓の戸締りはしっかりしていた。
だが、調べてみると玄関のカギだけが開いていて、唯の靴もなくなっていた。
祖母は5時前に起きていたようだけど、玄関が開いた音は聞いていない。

と、これだけ聞くと、これは…

叔母「警察の方の話だと、深夜か朝の早い時間に、唯が自分で玄関から出ていったのじゃないか、って…」

そうなるだろうな。

美加「何か無くなっているものとかは?」
叔母「靴と、あとはいつも着ているコートが無いだけでね…」

自分でコートを羽織って、靴を履いて出て行った…と思われそうだ。

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叔母「警察は、家出じゃないか、って…」
力無く、叔母さんが言う。

私「唯ちゃんが家出なんて、ありえないよ」
叔母「そうよね?そんなこと、する訳ないのに…」
私「私からも言っておくね」

今日帰る予定だった私たちは、唯ちゃんにも挨拶に来る約束をしていた。
それだけでも、このタイミングで家出をするとは考えられない…というのは、通らないだろうか?
良い様にとってくれないかも知れないけれど、警察の方にこの事は話しておこう。

私「お婆ちゃんは2階?」
叔母「あぁ、部屋にいると思うよ」
私「じゃあ、お婆ちゃんにも話を聞いてみて、それから探しに行くね」
叔母「あぁ…私も行きたいのだけど、家に居るように、って…」
私「うん。帰ってくるかもしれないから、おばさんは家で待っていてあげないとダメよ」
叔母「そうだねぇ…うん」

この様子で探しに行ったら、逆に叔母さんが心配で仕方ない。

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美加と2階に上がり、お婆ちゃんの部屋へ行く。
ノックをして入ってみると、お婆ちゃんはベッドに腰掛けて俯いていた。

私「お婆ちゃん」
祖母「あぁ、古乃羽…来たね」
私「…うん」

お婆ちゃんは…既に試したのだろうか。
…きっとそうだろう。
でも、それが上手くいかなかったので、俯いていたのだろうと思う。

祖母「あたしじゃ駄目だったよ。…古乃羽はどうだろうね」
私「やってみる」
そのために来たのだ。

美加「…あ、そういうことね」
私「うん」

お婆ちゃんと私に出来る事――それは、霊視だ。
唯ちゃんを、霊視で探す。
行方が分からなくなったと聞いたときから、そのつもりだった。

ただ、私はこの町の地理に詳しくないので、霊視で見えたものからその場所を知るため、町に詳しいお婆ちゃんの所に来たのだ。

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私は部屋の椅子に座り、霊視を始める。

深く息を吐き、目を閉じる。
全身の力を抜き、頭に唯ちゃんの事を思い浮かべる。

そして目に意識を集中して…別の目を開く――

――……

……



なぜ…?

ハッと息を付き、目を開ける。

美加「どう?」
祖母「見えたかい?」

2人の問いに、私は首を振る。

何で…?

私の目には何一つ…何も見えなかった。

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祖母「やっぱり、こういうのに頼っていたら駄目だね」
私「…」
祖母「気にすることは無いよ、古乃羽」
私「あ、うん…」
でも、これは…この見え方は…

美加「古乃羽、探しに行こう?」
美加が声を掛けてくれる。
私「そうだね…行こう」
祖母「気を付けてね」

美加に手を引かれるように、私は祖母の部屋を出る。
そして、階段を降りたところで――

美加「で、どうだったの?」

再び美加に聞かれる。
流石にお見通しみたいだ。

私「何も見えなかったの」
美加「うん」
私「普通、そんなことないのに…」

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まったく何も見えなかった。
遠すぎてぼやけるという事でもなく、まったく、何も。
その場合…今考えられるのは、2つの事だ。

その1つは――

美加「最悪の事は、考えないで」

――と、先に釘を刺される。

最悪の事。
1つの考え。
…それは、「既にこの世に居ない」ということ。

でも、それは無い。
無いと信じたい。

だから、この場合はもう1つの方だ。

私「――誰かに隠されている、かな」

何者かが、唯ちゃんを隠している。
その方法は分からないけれど、まったく見えないというのは、逆にそういう事だと思える。

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美加「それって、霊視されることを知っているからだよね」
私「うん」
美加「唯ちゃんが自分から隠れる、っていうのは考え難いから…」
私「杵島の事を知っている人に、隠された」
美加「…だね」

隠した「誰か」は、霊視の事を知っていて…それから隠れる術も分かっている。
どうやらこれは、容易には見つけられなそうだ。

美加「紗希ちゃんの所に戻ってみようか」
私「紗希ちゃん?」
美加「予知で何か分かるかも」

――今朝、叔母さんから連絡があって、私たちは荷物を置いたまま、すぐに堀塚邸を出てきた。
電話の内容…唯ちゃんが居なくなった、という話は、あの2人にはしていない。
ハッキリした事が分かっていなかった事と、変に心配させてはいけないと思い、何か急用が出来たみたいだからと言って出てきたのだ。

そう…確かに、そうだ。
予知で何か分かるかもしれない。
これから起きる事から、今の居場所が――

と思ったところで、ある考えが浮かぶ。

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私「美加、先に行ってくれる?」
美加「ん?古乃羽は?」
私「ちょっと行ってみたいところがあるの」
正確には、行って試したいことがある、だ。

美加「良いけど…」
私「ごめんね。後からすぐに行くから」
美加「危ないことしちゃ、ダメよ?」
私「うん。大丈夫」

いつも私が美加に言っていることを、逆に言われてしまった。

美加「じゃあ、先に行っているね」
そう言って、急ぎ足で出ていく美加。

突然こんな事が起きるなんて、美加が来てくれていて良かった。
頼りにしているよ、と心の中で感謝してから、私も急いで行くことにする。

行き先は――この家の近くにある、一乃守だ。
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