憩いの時間を過ごす@

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町の中心位置、林に囲まれた中に、ポツンと一戸前の土蔵がある。
この蔵は相当に古く、何百年も前のものだそうだ。
…まぁ、蔵と言えば大体そうか?

夕暮れ時、俺は隣町で仕入れた荷物を背負い、その蔵を訪れる。
目的はたいした事じゃない。…掃除だ。
「蔵の中を綺麗に掃除しておいて」と、あの女――舞に頼まれた訳だ。

一体何の目的だか知らないが、俺は蔵の入口に立ち、ゆっくりと扉を開けて中に入る。
蔵の中は8畳程の広さで、四方の壁の高窓からは薄日が差している。
窓の数は多く、扉を閉めてもそれなりに明るそうだ。

…しかし、その広さや明るさの事などどうでもよくなるようなものが、蔵の中にはあった。

蔵の半分程を占める、その空間。
2面の壁と、2面の頑丈そうな木の格子で区切られた、その空間。

それは、座敷牢だった。

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何だ、これは…。

町のど真ん中の蔵の中に、座敷牢がある?

この蔵の扉には、鍵は掛かっていなかった。
誰だって入れる場所だ。
そこにこんなものがあったら…

…いや。
普段は鍵が掛かっていて、今はあの女が開けておいたのか?
つまり、この蔵はあの女の物で、この牢も…

でも、こんな特異なものが誰にも知られずにおけるものか?
そもそも何年前のものだ?
何百年も前の蔵だと言っていたが、それがずっと…?

…あぁ。

ダメだ。
考えたって、何も分かるものじゃない。

あの女の事を考えると、頭が混乱してくる。
奴がこれから何をしようとしているかなんて、ただの駒である俺が考えるべきじゃない。
今日はまだ、他にも頼まれた「仕事」があるのだ…。

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――
泊まり来ないかという、急な誘い。
俺からの勝手な提案だったけど、快く来てくれた2人。
今は夕食を済ませ、紗希と3人で入浴中――裸の付き合い中だ。

紗希はいつも、母親の匡子さんとお風呂に入っている。
入浴用の車椅子と専用に作られた湯船で、紗希1人でも入る事は出来るが、
「何かあったら心配」と言って、匡子さんが一緒に入りたがるのだ。
紗希も、特にそれを嫌がっている様子は無い。

堀塚家は仲の良い家庭だ。
当主である真人さんは厳格な性格と言われているが、紗希には存外に優しく、俺にも良くしてくれる。
匡子さんも雅代さんも、勿論そうだ。
常に紗希の事を気に掛け、優しく接してくれる。

…だが、それだけではダメだ。

今、紗希の世界はこの町だけだ。
外の世界に興味を持ってはいるが、彼女は自分で枷を作って、外に出られないでいる。

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コンコン。

部屋のドアがノックされ、返事をすると古乃羽ちゃんが顔を覗かせる。

古乃羽「明君、お風呂出たよ〜」
俺「おう、ありがとう」
3人ともあがったようだ。
俺は準備していた着替えを持って、部屋を出る。

古乃羽「大きいお風呂、びっくりしちゃった」
俺「俺も最初は驚いたなぁ」
紗希のためにスロープ等が付いていることもあり、風呂全体、湯船も含めてかなりの広さだ。

古乃羽「じゃあ、紗希ちゃんの部屋に居るから、後で来てね」
俺「あぁ。出たら行くよ」
古乃羽「待っているねー」
そう言って紗希の部屋へ行く古乃羽ちゃん。

…紗希の、数少ない同世代の友人。
古乃羽ちゃんも美加ちゃんも、どちらもとても感じが良く…信頼できる人物だ。

彼女達になら、紗希を任せられる。
"外に出た"紗希にも、きっと力になってくれるだろう。

例え、俺が――…

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――
古乃羽「明君、お風呂出たら来るって」
明君に伝えに行き、部屋に戻ってきた古乃羽さんが言う。

私「はい。ありがとうございます」
今日は眠くなるまでお話していよう(美加さんの言では「ダベっていよう」)という事になり、皆が私の部屋に集まってくれることになった。
こういうことは初めてで…何だか嬉しい。

美加「ふふふ、美女3人に囲まれにくるのね」
古乃羽「あれ、美女って3人もいたっけな?」
美加「まさか…私だけだなんて…」
古乃羽「…」

以前来た時のように、椅子に座る2人。
本当はもっと楽にくつろげる場所が良いのでは、と思ったけれど、私に気を使ってか、ここが良いと言ってくれる。
そんなことも、ちょっと嬉しい。

動く事に不自由な私は、周りの人から親切にして貰える事が多い。
小さい頃はそれを疎ましく思う事もあったけど、
「好意は素直に受け、自分もまた優しく在りなさい」
と母に諭されてから、考えは変わった。

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美加「んーじゃあ、明君が来る前に聞いちゃおっかな〜」
ニコニコしながら私を見る美加さん。
何かな?

美加「紗希ちゃんはどうなの?明君のこと。…今更だけど」

明君のこと?

…あ。

何の事か分かり、顔が赤くなってしまう。

古乃羽「紗希ちゃん、顔真っ赤」
美加「もう分かっちゃったねぇ」
私「だって…」
そんな事、滅多に聞かれたことがない。

美加「愛し合う2人がひとつ屋根の下ですよ、古乃羽さん」
古乃羽「うーん、これはいけませんねぇ」
私「アハハ…」

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美加「明君とは、いつ会ったの?」
私「えっと…」
もう随分昔だけど、あれは確か――

私「私が8歳の頃に、明君のお父さんが来たから…その時です」
古乃羽「あ、そうなんだ」
美加「へぇ。その時だと明君は…11歳?」
私「はい」

父が新しい使用人として明君のお父さんを紹介してくれたとき、一緒に明君と奈々ちゃんにも会ったのだ。

美加「じゃあそれから…11年のお付き合いなのね」
私「え?いえ、そんな…告白してくれたのは、それから――」
美加「告白?」

私「あ…」
しまった、と思い、また顔が赤くなるのを感じる。

美加「ふふ〜ん、その"付き合う"って意味じゃ無かったんだけどな〜」
古乃羽「可愛いなぁ、もう…」
私「う〜…」

慣れない話なので、どうにも上手く受け答えができない。

憩いの時間を過ごすAへ続く
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