手を合わせるA

8/15
明「…あのさ、さっき飢饉の事を言っていたけど――それも古乃羽ちゃんのお婆さんが?」
明君が私たちに聞いてきて、今度は私と古乃羽が顔をあわせてしまう。

古乃羽「ううん。お婆ちゃんはお社の事は知らないみたいで…他の人から聞いたの」
明君に答える古乃羽。

明「それは、俺が行く前に居た人?」
古乃羽「うん、女の人。初めて会った…」
明「…」

再び紗希ちゃんと顔をあわせる明君。

…何だろう。
何か知っているのかな?

紗希「あの、出来ればその方の事、詳しく教えて頂けませんか?」
古乃羽「良いけど、あんまり…。えっと――」

古乃羽があの人の説明を始める。
…と言っても、知っている事は少ししかない。

名前が「舞」であること(古乃羽もそうだろうけど、ここはどうしても気になってしまう)。
私たちより2、3年上っぽいこと。
ロングコートを着ていたこと。
綺麗な人で、髪が長く、背丈は私と古乃羽と同じくらいであること…。

9/15
古乃羽「お社に興味を持ったみたいで、色々調べていたみたい」
紗希「…」
古乃羽の話を聞いて、何事か考え込む紗希ちゃん。
何か思い当たるところがあるのか、それとも…?

…っと。それより、私からこれも言っておかなきゃ。

私「それと補足で、見た目のことなんだけど」
紗希「はい」
私「印象って言うか、よくよく見てもそうだったのだけど、紗希ちゃんに似ている感じだったよ」
紗希「…私に?」
私「うん。ね?」
古乃羽「そうだね。そっくりって訳じゃないけど」
紗希「私に…」

再び考え込む紗希ちゃん。
うーん、何事なのか、ちょっと話が見えないナ…。
…よし。

私「紗希ちゃん。明君も…何かあったの?」
ズバッと聞いてしまえ。

10/15
紗希「…はい。ちょっと変な話なのですけど」
私「変な話なら得意よ。古乃羽もね」
古乃羽「うん。私の周り、変な話だらけだもの」

そう聞いて、クスリと笑う紗希ちゃん。
あぁ、可愛いなぁ。
でもきっと今の、冗談として受け取ったのだろうなぁ…。

紗希「あの…実は昨日、この家に――」
そして紗希ちゃんが、昨日あった話をしてくれる。
深夜に強盗が入ったという、物騒な話を。

紗希「――そうして、何も得られないまま家を出て、坂を下りたところで捕まる筈だったのですが…」
私「家を出てから行方が分からなくなった、と」
紗希「はい」
私「ふーん…」
紗希「それで考えたのですが…もしかして、私の予知の範囲外に誰かが居るのでは?、と」
私「誰か?」
紗希「はい。予知が外れるときは、必ず人為的な要因が絡んでいるので…」

その「誰か」が干渉した、って考えたわけか。
紗希ちゃんの予知の外にいた、誰かが。

11/15
紗希「それから、そういった人の事を少し気に留めていたら、お二人が一乃守で見知らぬ女性と出会う事が分かって…」
古乃羽「その人に違いない、って思ったのね」
紗希「はい。まるで印象を掴めない、影のようなイメージの人で…きっとそうだと」
私「…」

うーん。

誰かしらの干渉で予知が外れたという話。
でも、私にはそれがそんなに重大な事なのかな、と思えてしまう。
きっと、紗希ちゃんにとっては大事な事なのだろうけど…ちょっと分からない。

私「紗希ちゃん」
紗希「はい」
私「紗希ちゃんには、予知が絶対に外れてはいけない理由があるの?」
紗希「っ…」
私の言葉に、ビクッとする紗希ちゃん。
責めているように聞こえちゃったかな?

私「あぁ、えっと…ほら、予知だってたまーに外れる事はある、ってのはダメなのかな?って」
紗希「…」
私がそう言うと、紗希ちゃんは少し辛そうな顔をして俯いてしまう。
あらら…何か触れてはいけない事だった…?

12/15
私「あー…あの、ゴメンね?適当な事言っちゃって…」
紗希「あ、いえ…」
力なく答える紗希ちゃん。
なんだか悪い事しちゃった…?

古乃羽「あの女の人の事が、不安に思えるの?」
そんな紗希ちゃんに、古乃羽が質問をする。

紗希「あ、そうなのです。何か、ハッキリした予知では無いのですけど…」
お、さすが古乃羽。

古乃羽「良くない予知が出ちゃったとか?」
紗希「はい。予知というより予感で、具体的にこれとは分からないのですが…」
古乃羽「内容が分からないし、相手が特別っぽいから、どうした良いか分からない」
紗希「はい」
我が意を得た、とばかりに答える紗希ちゃん。
うぅ、フォローありがとう、古乃羽。一生付いていくよぅ。

明「…あの、ちょっと良いかな」
すると、少し話が見えたところで明君が声をあげる。
そして、とても急な話ではあるけれど、ある提案をしてきた――。

13/15
――
堀塚邸からの帰り道。
昨日と同じように、美加と2人であれこれ話をしながらの帰り道。

明君の提案は、「今日、泊まりに来ないか」ということだった。

紗希ちゃんもそれを望んでいて、私たちともっとお話をしたい、と言う。
でもお婆さん――雅代さんにご迷惑じゃ…と思ったけれど、いつも私が紗希ちゃんを訪ねてくる事を喜んでいた雅代さんが、この事を嫌がるわけもなかった。
ちなみに、紗希ちゃんのご両親は今日帰ってくる予定だったけど、それが少し延期になったそうだ。

私たちも久しぶりに会った2人とはもっと話したい事もあり、一旦杵島の家に戻ってから荷物をまとめて、再び来る事にした。
その旨、叔母さんには既に連絡済みだ。

美加「しかし、予知って凄いよねぇ」
率直な感想を言う美加。

私「制約とか、色々あるみたいだけどね」
美加「うん。でもさ、あれって…悪い予知があったら、それを回避できるって事よね」
私「そうだね」
美加「で、良い予知の場合は何もしないで居ればバッチリ」
私「美加の場合、ジッとして居られなそうね」
美加「アハハ…分かる?うん。きっとソワソワしちゃうな」
私「ふふ、私もダメかも」
それで変に干渉しちゃって、良い話が無くなっちゃったら、ガッカリだ。

14/15
美加「ところで…古乃羽はさ、あれ、どう思った?」
坂を下り、麓の道に入ったところで美加が聞いてくる。

私「あれって?」
美加「…祟り」
私「あぁ…」
やっぱり、気になっていたか。
美加が祟りの話をしたときの、紗希ちゃんと明君の反応だ。

私「何かあるのかなー、とは思ったけど…何だろうね」
あの反応は、祟りと聞いて「何のこと?」というものではなかった。
あれは、「何でそれを?」という驚きの反応にしか見えなかった。

美加「あと、あの女の人が言っていた事も気になる…」

「女の人」。
名前は「舞」と名乗っていたけど…その名前で呼ばない美加。
私も同じだ。何だか、そう呼びたくない…。

私「あの人が言っていた事って、あれ?「本当の事は私が」って」
美加「うん、それ。フフフ、古乃羽もやっぱり?」
私「それはまぁ…気になるわよ」

「本当の事は、私が教えてあげるからね」

そう、あれはまるで…あの後私たちが、紗希ちゃんから話を聞く事を知っているかのような言い分だった。
しかもそれが、本当の事ではない、と…。

15/15
――
杵島の家に着いた私たちは、改めて叔母さんに事情を話し、荷物をまとめる。
明日にはここから帰る予定だったので、それが1日早くなった訳だ。

今夜は一緒に居られないと知って、唯ちゃんが悲しげな表情をしたけど、
紗希ちゃんの家に泊まった後、もう一度挨拶に来る事を伝え、私たちは杵島の家を出る。

そして紗希ちゃんの家に向かう――前に、2人で何となく一乃守に行く。

ボロボロの佇まいの一乃守。
村を守るために、杵島家が使っていたというお社。
そこでふと、ある事を思い出す。

罪悪感。
このお社から感じたものだ。

その理由が、ちょっと分かった気がする。
きっと、飢饉の時、自分たちだけが助かった事に対するものだろう。
食べ物を求めてくる人を見張り、それを追い払ったか、あるいは…。

私は美加と2人でお社に手を合わせる。

辺りは既に暗くなってきていた。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -