雨が降るA

10/18
母「あ、それより明後日ね?」
私「あ…うん。良いよね?」
母「もちろんよ。明日の法事が終わったら夜にはみんな帰るし、正一たちも「久しぶりだなぁ」って喜んでいたわよ」

正一とは杵島家の長男で、お母さんの弟さんだ。
私を出迎えてくれた叔母さんの旦那さんで、2人の間にはさっき言った5歳になる一人娘がいる。
つまり普段この家には、お婆ちゃんもあわせて4人が暮らしていることになる。

母「それじゃあ、そういうことだから。よろしくね」
私「うん。…って、ちょっとぉ」

文句の1つでも言ってやろうと思ったのに、何だか上手くはぐらかされてしまい、お母さんは私を置いてソソクサと去っていった。

私「もう…」

まぁ仕方ないかと諦めて、私は玄関に向かう…と、
今のやりとりが終わるのを待っていたかのように、今度は小さな女の子が絵本を抱えてトコトコとやってきた。

11/18
私「あ、唯ちゃん」

やってきたのは、正一さんの一人娘の唯ちゃんだった。
頭に大きな黄色いリボンを付けており、なんとも可愛らしい。

私「こんにちは、唯ちゃん」
唯「…こんにちは」

私がしゃがみ込んで挨拶をすると、唯ちゃんはモジモジしながら挨拶を返してくれる。

毎年お正月には顔を合わせているけれど、唯ちゃんはかなりの人見知り――これくらいの年の子は、大体そうかな?――で、私の前でもいまだにモジモジすることが多い。

私「おリボン、可愛いねー」
唯「……」

私がリボンを褒めると、唯ちゃんは顔を真っ赤にして、持っていた絵本で顔を隠す。

…可愛いなぁ。
私もその仕草、真似してみようかな…なんて思ってしまう。

12/18
照れている唯ちゃんをニコニコしながら見ていると、唯ちゃんは何も言わずに、絵本をスッと差し出してくる。

私「ん?…読むの?」
唯「…」

コクリとうなずく唯ちゃん。

困ったなぁ…。
絵本を読んであげるのは構わないのだけど――

私「ごめんね。お姉ちゃん、お買い物にいかないといけないの」
唯「……」

えー…という、この世の終わりのように悲しげな表情をする唯ちゃん。

そんな顔をされると、ちょっとタマラナイ。
なかなかコツを掴んでいるじゃない。これも参考にしようかな。

私「じゃあ…、唯ちゃん、お姉ちゃんと一緒にお買い物に行こうか?」
唯「うん!」

代わりにと思い誘ってみると、元気な返事が返ってくる。
良かった良かった。
奥に居る叔母さんに一声掛け、絵本を置いてから、私は唯ちゃんと2人でお買い物に出掛けることにした。

13/18
買い物先は、去年の暮れにできたばかりだというスーパー。
家からあぜ道を通り、林の間の道を抜けた先、歩いて15分程の場所にある。…何気にちょっと遠い。

田園風景の中にある、多少浮いた感じのスーパー。
そろそろ辺りも暗くなり掛けていたので、私たちは着いて直ぐに頼まれた買い物を済まし、来たときと同じように唯ちゃんと手を繋いで家路に。

帰り道の唯ちゃんの手には、スーパーで買って上げた棒付きのキャンディ。
唯ちゃんは「ありがとう」と言ってくれたけれど、何を隠そう、お金の出所は母のお財布だ。

あ。そういえば…?

林の道に差し掛かったところで、私はふと、あることを思い出す。

――杵島の女。

お婆ちゃんは、戦争で兄弟を全て亡くしている。
そのためか、お爺ちゃんをお婿さんとして迎えており…その子供は私の母と正一さんの2人だけ。
そして、私も唯ちゃんも一人っ子。
つまり「杵島の女」と言うと、お婆ちゃんと私の母、それと私と唯ちゃんの4人だけになる。

母には「出なかった」らしいけれど…じゃあ、唯ちゃんには?
と、思ったときだった。

突然、ポツポツと雨が降り出してきた。

14/18
私「あれ…雨?」
不思議に思い、空を見上げる。
少し薄暗くなってきているけど、見事に晴れ渡った空。予報でも、今日は一日晴れだったはずだ。
こういうのって確か…

唯「キツネのよめ入りー」

あれ。先に言われた。

私「そうだね。すごい、唯ちゃん、物知りなのね」
唯「おしえてもらったのー」
私「へぇ…」

そう言いながら、私たちは雨を凌ぐために、道の脇にあった大きな木の下に逃げ込む。
私「ちょっと雨宿りしようね」
唯「うん」

雨が降り出したのが、林の道を歩いているときでよかった。
田んぼの真ん中で降られたら、家まで走って帰っても、きっとビショビショだっただろうな。
雨足は大したことは無いけれど、ちょっと距離があるから。

15/18
私「唯ちゃん、この雨の事、お婆ちゃんに教えて貰ったの?」

雨が止むのを待ちながら、私は何となく聞いてみる。
すると唯ちゃんは、飴を咥えたまま首を横に振る。
どうやら違うようだ。

私「それじゃ、お父さんかお母さん?」

これにも首を振る唯ちゃん。

私「んー…じゃあ、誰かな?」
それなら、きっと私の知らない人なのだろうけど…何となく気になるので聞いてみる。
すると唯ちゃんはスッと手を上げ、道の先を指差す。

え?と思い、私はその先を見る。

一瞬、そこには誰も居なくて…と思ったけど、そこには1人の男の人が歩いてきていた。

私「あ…」

雨の中、傘を差してこちらに歩いてくるその人。
見覚えがある、あの人は――

男の人「やぁ、古乃羽ちゃん。お久しぶり」
私「…明君?」

16/18
物部明(ものべ あきら)。

地元に住んでいる、私より1つ年上の男の子。
杵島の家の近所に住んでいたので、夏休みに帰省した際にはいつも遊んでいた子だ。
今はここからは少し遠い、町の中心から離れた場所に住んでいる。

明「やぁ、びっくりした。唯ちゃんと一緒にいるの、誰かなぁって」
私「私も驚いた…」

傘を閉じ、木の下に入ってくる明君。
そして、唯ちゃんにも挨拶をする。

明「こんにちは、唯ちゃん。今日も可愛いリボンだね」
唯「…うん」

私の時以上に、顔を真っ赤にする唯ちゃん。
…まぁ、男の人に言われる場合とじゃ、少し違うかな?
明君、背が高くて格好良いし。

明「何年ぶりだろう?5年くらい?」
私に向き直り、明君が聞いてくる。

私「4年かな?前に帰ってきたのがそうだから」
明「そうかぁ…」

17/18
明「…あ、そう言えば。聞いたよ古乃羽ちゃん」
フフフと含み笑いをするような感じで、明君が言ってくる。

私「…なぁに?」
その様子で何となく予想がついてしまうけど…

明「今、付き合っている人がいるって?」

うわぁ…やっぱり。
お母さんのバカ…。

私「もう。みんなに聞かれて大変なんだから、ヤメテ」
明「ハハハ…悪い悪い」
私「それより、紗希ちゃんは?元気にしている?」

紗希ちゃん。
昔、こちらで一緒に遊んでいた女の子だ。

明「元気だよ。古乃羽ちゃんが来ているって、伝えておくよ」
私「良かったぁ。私まだこっちに居るから、会いたいなぁ…」
明「あぁ、紗希も会いたがると思うから…訪ねておいでよ」

紗希、と呼び捨てにする明君。
昔から仲が良かったけど、どうやら今も良い関係みたいだ。

18/18
私「――あ、そうだ」
明「ん?」
私「美加のことは覚えている?」
明「美加?…あー、神尾の美加ちゃん?」
私「そうそう」
美加は過去に2、3回ここに来たことがあり、明君達とも会って一緒に遊んだことがある。

私「明後日ね、美加も来るの」
明「へぇ…」

そうなのだ。
明日の法事が終わった後、明後日の朝、美加が遊びに来ることになっている。
何も無いところなのに…と言うと、美加は「それが良いのよ」と言っていた。
自然の中でリフレッシュしたい、ということらしいけど…。

その後も雨が止むまでしばらく明君と話をする。勿論、唯ちゃんも交えて。
人見知りな唯ちゃんだけど、明君とは仲が良いみたいだった。
さすがは地元の人、かな?

やがて雨が上がったところで、私達は明君に別れを告げる。

――その帰り道、私の頭には、1つの疑問が浮かんでいた。

予報にもない突然の雨だったのに、明君はなぜ傘を持っていたのかな、と。
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