雨が降る@

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都会から離れた片田舎。
母方の実家のあるこの町(村と言うと、母は不機嫌になる)に、私は祖父の法事ということで久しぶりに帰ってきた。

最寄りの駅で降り、バスに揺られること約20分。
駅の周辺はまだ拓けているけれど、そこから離れていくにつれてお店の数は減り、田畑が広がってくる。
点々と建っている家は、ほとんどが平屋。
正に田園風景。
これを「村」と言わずして――なんて思っているうちに、バスは目的地に着く。

ベンチがポツンと1つ置いてあるだけのバス停。
唯一の乗客であった私を降ろし、ガタゴトと走り去っていくバスを見送ってから、私はあぜ道を歩いていく。

秋の夕暮れ時。
稲刈りの終わった田んぼに、赤とんぼ。
何だかしみじみとしてしまう。

小中学生の頃は夏休みになると毎年遊びに来ていたけれど、その頃と比べてもここは今もまったく変わっていない。

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ちょっと良い気分になって歩いているうちに、「杵島」(きしま)の家に着く。
杵島は母親の旧姓だ。

ガラガラと玄関の引き戸を開けると、中からはワイワイと賑やかな声が聞こえてくる。
足元には、靴がわんさか。
既に親戚一同が集まっているようだ。

私「こんにちはー」

私は奥まで聞こえるように声を張り、挨拶をする。
すると賑やかだった声が少し静まり、「あ、来たんじゃない?」「来た来た」といった声と共に、親戚の叔母さんが私を迎えに出てきてくれる。

叔母「あら〜古乃羽ちゃん、よく来たわね〜」
私「こんにちは、お久しぶりです」

ペコリと頭を下げて挨拶をする。
叔母「あらあら、いいのよぉ。ほらあがって、こっちこっち」

何がいいのか良く分からないけど、叔母はそう言うと私の手を引くようにして奥のお座敷に連れて行く。

叔母「ほらぁ、古乃羽ちゃん来たわよ〜」

声高らかに、私の到着を告げる叔母さん。
いつも元気な人だけど、今日はいつも以上にテンションが高いような…?

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私「あ…こんにちは、ご無沙汰しています…」
お座敷に集まっていた親戚一同の視線を一斉に浴び、少し緊張してしまう。

何でこんなに注目されているかな…

と思いながらも、「先にお線香あげてきます」と言って私は一度その場を失礼し、2階で祖父にお線香をあげてからまた戻ってくる。
すると、待っていましたとばかりに再び視線が私に集まる。

うーん、何だろう?と疑問が浮かぶけど、その理由はすぐに分かった。
親戚一同からの「遠かったでしょう」「久しぶりだねぇ」「大人っぽくなったねぇ」などといった挨拶の中に、こんな質問が紛れていたからだ。

「彼氏さんは一緒じゃないの?」

私「はい…?」

すると、「いやぁ、まだ早いわよぉ」と声が上がり、ちょっとした笑い声が起きる。
そう言ったのは他でもない、私のお母さんだ。
間違いなく、情報を漏らした張本人。
その横には、少し拗ねた感じのお父さんがチビチビとお酒を呑んでいる。

ん、もう――!

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それから約30分間、怒涛の質問攻めにあった私は、「今は2階の部屋で休んでいる」というお婆ちゃんにも挨拶するためにお座敷から逃げ出した。

さっきお線香をあげに来たときもそうだったけれど、2階に上がると下の騒ぎが嘘のように静かで、少し落ち着いた気持ちになる。

何だか懐かしい香りのする、木造の古い家。
2階は部屋数が多く、仏間などもあわせて大小10部屋もある。
これだけ部屋数が多いとお掃除が大変そうだな、なんて、小さい頃は考えもしなかったことを思いながらお婆ちゃんの部屋に行く。

私「お婆ちゃん、起きている…?」
部屋をノックしてから、そっと扉を開けて声を掛ける。
すると、お婆ちゃんはベッド上でニコニコしながら私を迎えてくれた。

祖母「よく来たねぇ、古乃羽。元気にしていたかい?」
私「うん。お婆ちゃんはどう?」
私は部屋に入ると、ベッドのすぐ近くまで行ってそこに置いてあった椅子に座る。

祖母「相変わらず、ずっと良いよ」
私「良かった…」

今年で74になるお婆ちゃん。でも、具合が悪くなったという話は一度も聞いたことが無い。
しっかり食べて、しっかり寝て、ちょっとした畑仕事もして。
お母さんが、「アレは相当長生きするね。お爺ちゃんが寂しがっているかも」なんて、冗談交じりで言っているくらいだ。

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お婆ちゃんの部屋で、私は自分の近況などの話をする。

すると、当然というか…付き合っている人が居る、という話になる。

祖母「そういえば、光恵(私のお母さんの名前)がそんなこと言っていたねぇ」
私「そうなの。あっちこっちで言いふらしているみたい」

まったく、恥ずかしくて仕方が無い。
100歩譲って親戚相手だけなら良いけど、家の外でもそんな事言っていたら…なんて心配になる。

祖母「良い人なのかい?」
私「…うん」
祖母「良かったねぇ…。曾孫の顔が見れそうかねぇ」

曾孫…と聞いて、少し顔が赤くなる。
お婆ちゃんの孫の中では、私が一番年上だ。
まぁ…2人しか居ないのだけど。
もう1人は、先ほどの叔母さんの子供――女の子で、まだ5歳。
だから、曾孫を期待するなら当然私が、ということになる。

私「…うん。楽しみにしていてね」

お婆ちゃんの手を握って、そう答える。
他の人に言われたのなら、何言っているの、まだ学生よ?早いわよ、と答えるところだけど…。

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祖母「古乃羽が好きになった人…どんな人なのかねぇ」
独り言のように呟くお婆ちゃん。

私「…」
質問では無かったのかも知れないけど、私は何となく彼のことを思い浮かべる。

…と。

祖母「古乃羽?」
突然、お婆ちゃんが驚いたような声を出す。

私「ん…なぁに?」
何事かとお婆ちゃんを見ると、お婆ちゃんは目を大きく見開いて、私をジッと見ながらこう言った。

祖母「古乃羽には、出たのだね…」

私「出た、って…何が?」
祖母「…」

私が聞き返すと、お婆ちゃんは視線を落としてため息をつく。

祖母「光恵には出なかったから…」
そう呟くお婆ちゃん。
…何のことだろう?

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祖母「古乃羽…」
私「…なぁに?」

いつになく、緊張した感じで話し掛けてくるお婆ちゃん。

祖母「古乃羽は見えるのだね?」
私「え…」

ドキリとする。
…前にも何回かあったけれど、私は自分の目の事を言われると、いつもドキッとしてしまう。

私「何で…?」
小さい頃から今まで、お婆ちゃんとそんな話をしたことは一度も無かった。

祖母「杵島の女は、昔からそうなのよ」
私「…」
初耳だ。

祖母「光恵みたいに、出ない場合もあるのだけどねぇ」
私「そうなの…」

私のこの目は、血筋だった訳だ。
今まで聞いたことが無かったのは、お母さんがそうではなかったからだろうな。

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私「あ…、じゃあ、お婆ちゃんも見えるの?」

私にそう言ってきたということは…と思って聞くと、お婆ちゃんはコクリと頷く。

祖母「見えても何も良いことは無いし、気味が悪いと思われるだけだから…滅多に人には話さないけどね」

確かに私も、あまり人には話さない。
知っているのは美加達だけだ。

祖母「本当に、ただ見えるだけで、何も出来ないからねぇ…」

――そうなのだ。
除霊でも出来ればまだしも、ただ見えるだけ。
まったく無力で、怖い思いをするだけ。
下手をすると、この前の名刺のように大怪我をすることになる。

祖母「古乃羽も気を付けるようにね。危ない目にあわないように…」

実は既に色々と危ない目にあっているわけだけど、それは黙っておくことにした。
余計な心配を掛けるだけだものね。

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それからしばらくお婆ちゃんと話をした後、私は1階へと降りていく。
すると、丁度降りたところでお母さんがやってくる。

母「あぁ、いたいた。古乃羽、ちょっとお願い」
私「なぁに?」
母「はい、これ」

そう言って、お財布とメモ書きを渡される。
メモには「しょうゆ、お茶」などと書いてある。

母「それじゃ、お願いね」
それだけ言って、戻っていこうとするお母さん。

私「あぁん、ちょっとぉ」
母「なに?」

そんなお母さんを呼び止める。
彼の事を言い触らした件について、一言、言っておかないとな。

母「お買い物はイヤ、なんて言わないでよ?」
私「言わないわよ。それより――」
母「あ、雨月君のこと?いやねぇ、ほら、こうやって外堀から埋めていかないと。そうすればお父さんも分かってくれるわよ」
私「…拗ねていたじゃない」
母「大丈夫よ。いつもあんな感じなんだから」

いつもあんな感じって…それはそれで問題な気がする。

雨が降るAへ続く
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