2人は見つける

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川原で古乃羽と話をした後、私たちは来た時とは別の道を通って帰っていた。

ぽろぽろと泣いてしまって、ちょっと恥ずかしかったけど…
思っていたことを打ち明けることができて、スッキリした気分だ。
古乃羽にはホント、感謝しないといけない。
昔っから、お世話になりっぱなしだなぁ…

なんてことを考えながら歩いていると、道は十字路に差し掛かる。
明らかに車の通りはないけれど、私は優良歩行者よろしく右を見て左を見て――

私「ん?」

そこに、あるものを見つける。

歩いてきた道の左手には林があり、ここを左に曲がれば当然その林に入っていくことになる。
その分け入った道――林の道に面して、ひっそりと佇んでいるもの。

それはとても小さな、古びたお社だった。

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私「古乃羽」

私は古乃羽に一声掛けてから道を曲がり、お社のもとへ行く。

古乃羽「どうしたの?」
あとをついて来る古乃羽。

私「うん。これ――」
古乃羽「あ」

私が言うが早く、お社に気付く古乃羽。その目がキラリと輝く。
こういったものは、古乃羽の"大好物"だ。

古乃羽「へぇ…知らなかったな」
私「そうなんだ」
古乃羽「あんまりこっちの道、通らないからね」

そう言いながら、興味深そうにお社を調べる古乃羽。

大きさは小学校にあった百葉箱くらいで、土台となる石が私の腰くらいまで積まれている。
お社はその上に載っているため、全体の背の高さは丁度私と同じくらいだ。
立派な棟飾りが付いていて「ミニ神社」といった感じだけど、大分古いものらしく、原型は留めているものの外見はボロボロになっている。

古乃羽「中に銅鏡があるよ」
私「へぇ…」

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古乃羽「ニ…ノ…モリ?」
私「ん?」

お社を覗き込んでいた古乃羽が、何事か呟く。

古乃羽「銅鏡に書いてあるの。数字の二の、守るって」
私「ふーん…」

古乃羽に退いてもらい、どれどれと覗いてみると確かに書いてある。
内部の台座に鎮座している銅鏡の下部に、「二乃守」と。

古乃羽「なんだろう」

なんだろうと言いながらも、どことなく嬉しそうな古乃羽。
こういった物も、彼女は大好きだ。

私「二ってことは、どこかに一とか三もあるのかな」

ピコーンと思いついたことを言ってみる。

古乃羽「あ、そうかも。すごい、美加」
私「むふふ…」

まったく単純な話で、しかもそれが正解という訳ではないだろうけど、褒められると鼻高々だ。

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私「しっかし、見事にボロボロねぇ」

私はお社から少し離れ、全体を見てみる。
…まったくもって、見事な朽ち方だ。
長い年月、雨風に曝されてきた結果だろう。

古乃羽「ほんとね。誰か修繕しないのかな」
肩を並べてくる古乃羽。

私「相当古そうだけど、誰もなーんもしないみたいね」
古乃羽「ね。仮にも神様を奉っているのに――…」

…と、言葉を切る古乃羽。
ん?と思い横を見ると、首を傾げている。

私「どうかした?」

古乃羽「鳥居が無い」

私「鳥居?」
そう言われて改めて見てみると、確かにそのお社には鳥居が無い。

…でも、それが何か?

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私「鳥居が無いお社って何か変なの?たまに見かけない?」

古乃羽「鳥居の意味を考えると、あまりない筈よ。無いように見えても、お社と一体になっていたりするかな」
私「意味って?」

古乃羽「境界。人が住んでいる場所と、神様が住んでいる場所の境目」
私「へぇ…」

ってことは、このお社には境界がない訳だ。

古乃羽「神様を奉るなら、普通は鳥居があるものだけど…」
私「なるほどね」

あ、じゃあ…、と言い掛けて、頭の中に嫌な考えが浮かぶ。

じゃあ…ということは、何?

古乃羽を見ると、真剣な表情でお社を見つめている。
きっと私と同じ考えを持ったのだろう。

じゃあ、このお社は何?

ボロボロのこのお社は、何を奉っているの…?

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風が吹き、ざわざわと林が鳴る。

急に目の前のお社が"良いもの"ではないように思えてきた。
その朽ち方もなんだか嫌な雰囲気で、見ていると少し肌寒さすら感じてくる…。

私「まさかさ、何か悪いものを奉っている訳じゃない…よね」
古乃羽「うん…。ないと思う…」

自信なさげに古乃羽が答える。
しかしそう思うということは、少なくとも古乃羽の目に嫌なものは見えていない、ということだろう。

古乃羽「鳥居が無いお社ってね、まったくない訳じゃないの」
まっすぐ前を見据えながら古乃羽が言う。

私「そうなんだ」
私も前を見ながら答える。
お互いに、何故かそのお社から目が離せないでいる。

古乃羽「むしろ、人にとっては良いものだったりするのよ」
私「へぇ…」
古乃羽「境界がない訳だから、より近くに神様を感じられる…って」
私「あぁ、そっか」
身近な存在として、人と隔てなくそこに居てくれる訳だ。

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古乃羽「でもこれは…」
私「…」

違う。これは違う。
徐々に、そう確信できてくる。
これは身近な神様とか、そういうものではない。
そもそもそういった類のものなら、こんなボロボロになる程放置されることはないだろう。
こんなところに、ひっそりと――

…こんなところ。

こんなところ?

私「ここって、どの辺だろ」
古乃羽「ん?」
私「ここ、町のどの辺りになるのかな」
古乃羽「あぁ。えーっと…」
道の前後に首を伸ばす古乃羽。

古乃羽「…うー、知らない道だから分からないや」
…あら、残念。

古乃羽「帰って地図でも見てみようか」
私「うん」

確かにそれが手っ取り早い。
それに、そろそろお昼の時間に遅れそうだ。
私たちは取りあえず、そのお社をあとにした。

8/13
――
家に戻りお昼ご飯を済ませた後、私は叔母さんから借りた地図を美加と2人で広げていた。
借りたのは大縮尺の大きな地図で、町の細かい道まで分かるものだ。

私「この家がここね」
畳の上、美加と向かい合って屈み込みながら地図の一点を指差す。

美加「あの川原はどこだろ」
私「えーっとぉ…」
地図上、家からの道を辿っていく。
町の地図を見るのは実はこれが初めてで、こうしないと上手く目的地を探せない。

私「あった、ここ」
美加「…結構遠かったのねぇ」
私「そうだね」
特に気にせず歩いていたけど、地図で見てみると意外と家から離れているのが分かる。

美加「で、ここから…」
私「こっちの道だね」
そこからの帰り道――来た時とは違う道を、指で辿っていく。

私「こう行って…十字路は、っと…ここね」
十字路発見。
ここを左に曲がってすぐの道沿いに、あのお社があったのだ。

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美加「ここ、町の出入り口だね」
お社があった道を指差して、美加が言う。

私「うん」
確かにその道を少し行くと、町の外に出ることになる。

美加「だから、「守」なのかな」
私「ん?」
美加が何かしらの考えに行きついたみたいだけど、私にはサッパリだ。
そもそも場所を気にする事も、私には無かった。

私「何か分かった?」
美加「うーん、分かったって言うか、単純な発想なんだけど――」
地図から顔を上げる美加。

美加「ニ乃守ってことは、何かを守っていたのかなって。
で、例えば外敵から町を守っていたものだとすると、それは町の入口にあるのが普通だろうな、ってね」
私「なるほどぉ」
入口で外敵の侵入を防ぐためのもの、って訳だ。

私「昔の外敵って言うと何だろう?」
美加「うーん…」
時代が分からないけど、どんなものが――…あ。

私「病気とか?」
美加「あ、そうね」
悪い病気が入ってこないように、といったものだ。
お社があったところで「人」の侵入は防げないだろうから、この辺が正解に思える…けど。

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美加「…でもそれじゃあ、説明にならないよねぇ」
私「だよね…」

病気などの外部の災いから、町を守るためのお社。
――でもそんな大事なお社なら、あんなにボロボロになる程放置されているのは何故?

美加「うーん…」
腕を組んで考え込む美加。
分からないことがあって、モヤッとしている状態が嫌いだからな。
…学校の勉強でもそうであれば良いのに。なんて、また偉そうなことを考えてしまう。

私「お婆ちゃんに聞いてみようか」
美加「…うん。ちょっと分かりそうにないや」

この土地に長く住んでいるお婆ちゃんなら、きっと何か知っているだろう。
自力で何かしら納得のいく答えを出したかったけど、流石にこれは分からない。
なかなか上手い具合に「手頃な謎」は無いものだ。

…いや。
そもそもこれは何の謎でも無いかもしれない。
あれは、ただ単にあの辺に住んでいた人が作ったもので、その人が亡くなってからは放置されている…という事かもしれないのだ。
鳥居だって、別に無くたってそんなにおかしい事ではないだろう。

なのに…何故か気になってしまう…?

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祖母「あぁ、あのお社」

私たちは早速お婆ちゃんの部屋に行き、お社のことを聞いてみる。

私「うん。ちょっと気になって」
祖母「…」
少し眉間にしわを寄せるお婆ちゃん。何か知っているのかな?

祖母「あれは、私が小さい頃からずっとあんなでね」
私「うん」
祖母「昔、私も気になって母に――古乃羽のひいお婆さんに聞いたことがあるんだよ」
私「あのお社は何、って?」
祖母「そう。今の古乃羽と同じようにね」

ふむふむ、血は争えないなぁ、なんて思ってしまう。
ひいお婆ちゃんには会ったことはないけれど、きっと私達と同じように霊感を持っていたのだろうな、と何となく思う。

私「そうしたら、何て?」
祖母「…」

少し言いよどむお婆ちゃん。
どうしたのかな…?

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祖母「古乃羽たちが見つけたのは、二乃守って言ったね」
私「うん」
祖母「この家の近くに一乃守があってね。他にも、全部で6つあるんだよ。六乃守まで」
私「へぇ…」

美加「それは、全部町の入口に?」
横で話を聞いていた美加が質問する。
祖母「そう、よく気が付いたねぇ…。その通りだよ。この町の入口、全てにあのお社があるね」

町の入口全てにお社がある。
じゃあ、あれはやっぱり…

祖母「名前からして分かったかい?あれは町を守るためのものだよ、ってひいお婆ちゃんは言っていたね」
私「やっぱり、そうなんだぁ」

予想通りで、なんだかつまらない気がしてしまう。
でも…

私「でもそうだとしたら、何であんな風に放置されているの?」

さっき美加と話していた疑問。
当然、それが気になってしまう。

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祖母「ふむ…」
また少し、眉間にしわを寄せるお婆ちゃん。

祖母「やっぱり、古乃羽も同じように考えるのだね」
私「同じ?」
祖母「私も疑問に思ってね。なぜって聞いてみたのよ」
私「そうなんだ」

小さい頃のお婆ちゃんと同じように考え、同じように動いていることが、なんだか不思議に思える。

祖母「そうしたら、変なことを言われたよ」
私「変なこと?」
祖母「そう。何の説明も無くね」
私「…何て?」

ちょっともったいぶる様な…いや、言うのを躊躇うような素振りを見せるお婆ちゃん。
でも少し間を置いた後、ゆっくりと口を開き、こう言った。

祖母「お社に近付いてはいけない。近付けば祟りが起きるってね」
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